



生命活動の維持に必要不可欠な物質―、塩。
人間の血液中で、塩分はおよそ0.9%の濃さに保たれています。神経の働きにも塩が必要で、もし欠乏すると、脱水症状や血液の低下、倦怠感・脱力感。精神不安定などの症状が現れます。まさにわれわれ人間が生きるためになくてはならない物質、それが“塩”なのです。そんな塩を、古今東西、人間は貴重なものとしてとても大切にしてきました。
古代中国では、『史記』『周礼』など2千年以上も昔の文献にも塩が登場します。塩は王侯の専有で、王は人民を掌握し支配するための手段として、塩を分配していました。そして、塩を管理する官職は「塩人」と呼ばれ重く用いられていました。また、塩を税金の代わりに納めた時代があり、許可なく作ったり売ったりすると極刑に処されたということです。
他方、紀元前7世紀頃の古代ローマでも大きな製塩場が作られ、そこでできた塩を運ぶための道を特別に「塩の道」と名付けていました。また、兵士の給料を塩で払っていた時代もあります。現在使われている「サラリー(=給料)」という言葉の語源は、なんとラテン語で塩を表す「サル」からきているのです。
このほか、キリスト教でも「旧約聖書」に塩の記載がありますし、日本にも「古事記」に海水で禊祓(みそぎはらい)をした記載があります。また、古代エジプトではミイラに塩を用いていましたが、物理的な防腐効果以外にも、呪術的役割を果たしていたと考えられています。
このように、塩=海水は地球上の生命の源であり、古き時代から世界で貴重なものとして大切にされてきたのです。
盛り塩といえば、飲食店などの入り口の両端ににおいてあるのをご存知の方も多いことでしょう。
この盛り塩のルーツは、中国の故事にあるといわれています。
昔、秦の始皇帝の時代、つまり紀元前210年ごろのことです。皇帝は、何人もの美しい妾妃をもっていました。当時皇帝は牛車で移動し、牛が止まった女性の家で一晩を過ごしていました。こうなると、女性たちのほうも何とか皇帝に来てもらおうと皆必死です。いつの時代も賢い女性がいるもので、その中のある美妃は一計を案じました。皇帝を乗せた牛車が自分の家の前に止まるように、自宅の前に牛の好物である塩をこんもりと盛っておいたのです。牛は毎晩その女性の家の前で止まり、大好物の塩をペロペロなめて動こうとせず、こうしてこの美妃は一身に皇帝の寵愛を集めたということです。
これと同様の言い伝えは日本にもあります。京都に都のあった平安時代のことです。日本でも、やはり牛車に乗っているのは身分の高い人だったわけですが、人々は、家の前を通る牛車の牛を呼び込もうと自宅前に塩を盛っていたそうです。牛が好物の塩を目当てに立ち寄るとその牛車に乗った高貴な身分の人々も家に立ち寄ることになり、縁起がいいとされていたのです。
その他には、賀茂別雷神社(上賀茂神社)の拝殿前に一対の円錐形に盛った浄め砂、「立て砂」に由来するという説もあります。貴人を迎えるときに門の左右に砂を高く盛り上げることで、俗界と聖なるところの境界を意味し、清める意味を持つとされています。さらに、東山区にある銀閣寺庭園でも、銀沙灘の端に立て砂が盛られています。銀閣寺建立当時、銀閣寺は貴人用で俗人は出入りできませんでした。ここでも、俗世間からのお浄めの意味で、立て砂がなされたのでしょう。この立て砂が盛り塩の原型だという説があります。
伊勢神宮でも、二千年にも及ぶ期間、海水を煮詰めて天日に干して作るという古来の製法で作った「御塩」を神宮に奉納しています。料理屋の入り口の盛り塩は、こうしたことから客の足を止めるための縁起ものとして、また「清め塩」の意味とあいまって受け継がれてきたのでしょう。
塩には、全てのバランスを整える力があります。必要なものを引き寄せ、ふさわしくないものを跳ね除ける、厄をはらい、足りないものを補う―。そんな力が、塩にはあるのです。人類が古代から大切にしてきた塩、そして、われわれの生命活動に必要不可欠な塩、そんな塩の持つ力をあなどるわけにはいかないのではないでしょうか。
毎日使う塩。みなさんのご家庭にある塩を使って、気軽にはじめてみましょう。まずは盛り塩をする場所や部屋をきれいに掃除しましょう。そして、1箇所に10グラムくらいが目安で、置く場所は、玄関や部屋の入り口、水場が特に効果的ですが、基本的にはどこでも構いません。自分が気になるところに置きましょう。器は、直径5センチくらいのものがよいでしょう。基本は白ですが、その方位のラッキーカラーを使ったり季節にあったものを取り入れたりすると盛り塩効果はグンとアップします。また、効果が薄いと感じたら、天然の塩や高級な器を使ってみるのもいいかもしれません。
盛り塩の塩は、1〜2週間に1度、交換してください。使い終わった塩はそのまま捨ててかまいません。場所に応じて屋外にまいたり水場に流したり、バスルームなどでしたら、そのまま湯のはられた浴槽に入れたりしてもよいでしょう。風水で大切なことは三日坊主で終わらないこと。そのためにも、難しい事をあれこれ考えずに、毎日の生活に感謝する気持ちで楽しんですることです。